決議・声明
法科大学院の地域適正配置に対する配慮及び公的支援を求める会長声明
平成16年4月に創設された法科大学院制度は、法の支配をあまねく実現するため全国各地で開校され、多種多様な経験を持つ法曹を社会に輩出するなどの一定の成果を上げている一方で、8年以上が経過した現在、司法試験合格率の低迷や入学志願者の激減等、制度の根幹にかかわる深刻な問題に直面している。
このような状況の中、平成24年8月には法曹養成制度の在り方を検討する法曹養成制度閣僚会議及びその下に法曹養成制度検討会議が設置され、上記諸問題を解決するため法科大学院の統廃合や定員削減について現在議論がなされているところであるが、統廃合や定員削減の結果、法科大学院の地域適正配置の理念が損なわれることがあってはならない。司法試験の受験資格を原則として法科大学院修了者に限定している現状において、経済的な資力が十分でない者や、家庭や仕事等の事情から転居困難な地方在住者などに対しても法曹への道を広く保障するためには、法科大学院が全国的に配置されることが必要不可欠である。
鹿児島大学法科大学院をはじめとする地方の法科大学院では、当該地域出身の学生を多く抱え、地元に法科大学院があるからこそ、法曹の道を目指すことができる学生が数多く存在する。
21世紀は地方主権の時代であり、我が国の各地域が主体性と活力を持って発展するためには法曹の力が必要不可欠であるところ、各地域は、歴史的に固有の背景があり、特に鹿児島においては離島を抱え、極端な少子高齢化の進む地域を抱えている。それらの地域ニーズに応えるためには「地域についての豊かな感受性」と「深い地域理解」の上で、法曹として自らの専門的な能力を発揮することが求められるのであり、地域の特性や文化を含めて学んだ者が各地域において活躍することが期待される。
もちろん、法科大学院の地域適正配置の理念を重視すべきとはいえ、法科大学院が形式的に設置されるだけでは地域ニーズに応えることはできず、その前提として適正な教育水準の確保が必要となる。
この点、当会が支援している鹿児島大学法科大学院においては、開校当初司法試験の合格率が低迷していた時期もあったが、法科大学院が強い危機感を持って教育改善に取り組み、入学者の競争倍率を確保し、学生からの評価を取り入れるなどした結果、相当程度の教育改善が図られているところである。
また、当会としても、鹿児島が多数抱える離島でのリーガルクリニック(臨床法学教育科目)に当会会員を派遣し、地域事情を意識した教育を行っているほか、エクスターンシップ(当会会員事務所での実務研修)の実施や、実務家教員・非常勤講師への選任など、十分な協力体制のもと支援を行っているところである。
このような鹿児島大学法科大学院の教育改善や当会による支援の結果、近年においては鹿児島大学法科大学院の司法試験合格者数も増加傾向にあるほか、鹿児島大学法科大学院の修了生が地元鹿児島及び九州管内の弁護士会に登録する地域定着率も高い割合となり、まさに法科大学院設立の趣旨に沿う結果が生まれつつある。
このように、地方の法科大学院自体が教育改善に積極的に取り組み、地元弁護士会が支援することによって、地方の法科大学院において適正な教育水準が確保されつつあり、その成果を見極めるための期間が必要であるから、その間は地方の法科大学院を統廃合の対象とすべきではない。また、地方の法科大学院における適正な教育水準を維持し、さらに高めていくためには、そのために必要とされる資金や教員等が十分に確保できるような公的支援が必要である。
そこで、当会は、法曹養成制度閣僚会議及び同検討会議に対し、法科大学院の統廃合や定員削減を検討する際には、多種多様な法曹を確保するという司法制度改革の理念を実現するため、法科大学院の地域適正配置に配慮し、教育水準の向上を図るためのさらなる公的支援を実施するよう求める。
平成25年2月13日
鹿児島県弁護士会
会長 新 納 幸 辰