決議・声明

各人権条約に基づく個人通報制度の早期導入及びパリ原則に 準拠した政府から独立した国内人権機関の設置を求める決議

2011.12.20

当弁護士会は、わが国における人権保障を推進し、国際人権基準の実施を確保するため、2008年の国際人権(自由権)規約委員会の総括所見をはじめとする各条約機関からの相次ぐ勧告をふまえ、国際人権(自由権)規約をはじめとした各人権条約に定める個人通報制度の導入及び国連の「国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)」に合致した、真に政府から独立した国内人権機関の設置を政府及び国会に対して強く求める。
以上のとおり決議する。

決議理由

1 個人通報制度について
国際人権(自由権)規約、女性差別撤廃条約、拷問等禁止条約、人種差別撤廃条約等の人権条約には、様々な人権保障条項が規定されている。それらの人権を国際的な基準で確保していくための制度の一つとして、個人通報制度がある。
この個人通報制度とは、人権条約の人権保障条項に規定された人権が侵害されているにも拘わらず、国内での法的手続を尽くしてもなお人権救済が実現しない場合、被害者個人等が各人権条約の定める国際機関に通報し、救済を求める制度である。
国際人権(自由権)規約及び女性差別撤廃条約は本体の条約に附帯する選択議定書に個人通報制度を定め、拷問等禁止条約及び人種差別撤廃条約は本体条約の中に個人通報制度を備えており、個人通報制度を実現するためには、選択議定書の批准、あるいは本体条約の当該条項の受諾宣言の手続が必要である。しかしながら、わが国は、これまで選択議定書の批准及び本体条約の当該条項の受諾宣言をせず、個人通報制度を導入してこなかった。
残念ながら、わが国の裁判所は人権保障条項の適用について必ずしも積極的とはいえず、また民事訴訟法の定める上告の理由には国際条約違反が含まれず、国際人権基準の国内実施が極めて不十分となっている。
各人権条約における個人通報制度がわが国で実現すれば、被害者個人が各人権条約上の委員会に見解・勧告等を直接求めることが可能となり、わが国の裁判所も国際的な条約解釈に目を向けざるを得なくなる。その結果として、わが国における人権保障水準が国際基準まで前進し、また憲法の人権条項の解釈が前進するなどの著しい向上が期待される。さらに、それによって、具体的な事案における行政府や立法府による改善を促す契機にもなると考えられる。
2 国内人権機関の設置について
国内人権機関とは、人権侵害からの救済、国際人権基準に基づく立法や行政への提言及び人権教育の推進などを任務とする国家機関である。
人権侵害を受けた者が裁判制度を利用するには、多くの費用と時間が必要である。また社会的にみて深刻な人権侵害と認められる事象であっても、裁判所による法的な救済が困難なケースも少なくない。このような場合、裁判所以外にも、簡易かつ迅速に人権救済にあたり、立法や行政に対して人権保障の観点から発言する機関が必要であると考えられる。そのため、国連決議及び人権諸条約機関では、各国に対し、国内人権機関を設置するよう求めており、多数の国がすでにこれを設けている。
国連は、1993年12月に「国内人権機関の地位に関する原則(いわゆるパリ原則)」を採択し、各国に対し、国内人権機関が法律に基づいて設置されること、権限行使の独立性が保障されていること、委員及び職員の人事並びに財政等においても独立性を保障されていること、調査権限及び政策提言機能を持つことなどを求めている。
わが国に対しては、国際人権(自由権)規約委員会、人種差別撤廃委員会、女性差別撤廃委員会、子どもの権利委員会などから、早期にパリ原則に合致した国内人権機関を設置すべきとの所見が表明されており、2008年5月には、国連人権理事会の勧告がなされる状況にも至っている。
現在、わが国には法務省人権擁護局の人権擁護委員制度があるが、独立性等の点からも極めて不十分な制度である。また2002年に国会に提出された人権擁護法案や、2005年に民主党が提案した法律案も、パリ原則に適合しているとはいえない不十分なものであった。
このような状況の中で、日本弁護士連合会は、2008年11月18日、パリ原則を基準とした「日弁連の提案する国内人権機関の制度要綱」を発表した。
また2010年6月22日には、法務省政務三役が「新たな人権救済機関の設置に関する中間報告」において、パリ原則に則った国内人権機関の設置に向けた検討を発表するなど、国内人権機関設置に向けた機運は高まってきている。さらに本年4月には、与党においても「人権侵害救済機関検討プロジェクトチーム」の初会合が開かれるなど、実現に向けた動きもみられる。
3 結語
当弁護士会としても、わが国における人権保障を推進し、また国際人権基準をわが国において完全実施するための人権保障システムを確立するため、個人通報制度を一日も早く採用するとともに、パリ原則に合致した真に政府から独立した国内人権機関をすみやかに設置することを政府及び国会に対して強く求めるものである。

2011(平成23)年11月19日
鹿児島県弁護士会

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