決議・声明

今すぐ取調べの全過程の可視化(録画)を求める会長声明

2009.11.09

2009年11月9日
鹿児島県弁護士会
会長 森 雅美

 アリバイが成立して12人が無罪となった志布志事件、服役した後真犯人が発見されたため再審無罪となった富山氷見事件、DNA鑑定の誤りがその後の再鑑定により明らかとなり17年半もの間刑務所に服役された後冤罪であることが判明して釈放された足利事件では、いずれも密室取調べにより簡単に虚偽の自白が作られてしまう実態、「やってもいないことを自白させる捜査機関の取調べ」の実態が明らかになりました。
 無実の人々の自由を奪い、恐怖と孤独、絶望と屈辱に追いやった原因は、捜査機関の密室での取調べにより虚偽の自白が作られ、この自白の虚偽性を裁判所がなかなか見抜けなかったことにあります。
 取調べは取調官の聖域であり、これまで取調室を外部からチェックすることは許されませんでした。そのため、捜査段階の「密室」取調べで獲得された自白はいとも簡単に信用される一方で、一旦自白すると、「公開」法廷での無実の叫びは容易に裁判所に届かず、冤罪は後を絶ちませんでした。21世紀になっても、志布志事件等の重大な冤罪事件が発覚したのです。
 しかし、これらの発覚は、アリバイ、真犯人、DNA型鑑定という客観証拠が後にたまたま見つかったという幸運に恵まれたものに過ぎません。事実に反する供述を強要されたと訴える人々は、強要された自白と矛盾する客観証拠が発見されるまで、その冤罪を晴らすことは不可能に近いのです。真実が明らかになるまでのこれらの被害者の方々の苦しみは、筆舌に尽くしがたいものです。ところが、このような幸運に恵まれる事件はわずかです。そのため、布川事件の桜井昌司さん及び杉山卓男さんのように、自己の無実を明らかにするため、今なお何十年もかけて孤独で必死の闘いを続けている方々がおられます。甲山事件では、山田悦子さんは、密室取調べで虚偽自白をさせられたために、無罪判決が確定するまで25年もの間、春秋に富む時期を失意のどん底に突き落とされてしまいました。これらの例は氷山の一角に過ぎず、捜査段階で虚偽の自白をしたため、死刑執行された方々もあるかも知れないのです。これら志布志事件等の存在は、現在の裁判官の司法判断では冤罪を防げないことを意味します。また、志布志事件等の事案における虚偽自白の存在は、密室での取調べにおいては、捜査機関が標榜する取調べの真相解明機能が全く働かなかったことを意味します。
 このような虚偽の自白による冤罪を繰り返さないための解決策は、事後の検証が可能な取調べの全過程を録画・録音することです。そもそも公権力は、冤罪という最大の人権侵害を犯してはなりません。そのチェックは権力の民主的統制という視点からも重要です。立憲民主主義の憲法をもつ諸外国では、取調べの全過程の録画・録音制度を導入して、取調べの事後検証を可能とする権力抑制の仕組みを次々に整備しています。
 現在、検察や警察で一部録画の試行が行われていますが、これは、取調官にとって都合が悪い、自白強要場面を除外して録画することが可能であり、密室での取調べの真実の姿が明らかにならず、却って、冤罪を生み出す装置になりうるものです。このような我が国の立ち後れに対し、2008(平成20)年10月、国連自由権規約委員会は、日本政府に対し取調べの全過程における録画機器の組織的な利用を勧告しましたが、日本政府はこれを無視し既に1年が経過しています。
 そこで、当会は、志布志事件等に象徴される密室での違法な取調べを抑止し、何度も繰り返された冤罪の悲劇を二度と繰り返さないために、国に対し、取調べの全過程の録画録音制度の立法化を「今すぐに」行うことを強く求めるものです。

一覧へ戻る

ページのトップへ戻る
新型コロナウイルスの影響で借入金返済にお困りの方へ
無料法律相談カレンダーのご案内
法律相談会場のご案内
法律相談窓口
司法過疎地域巡回無料法律相談
ひまわりほっとダイヤル
ひまわりお悩み110番
弁護士無料派遣
災害特設ページ
鹿児島県弁護士会へのお問合せ
鹿児島県弁護士会会員ページへログイン
鹿児島県弁護士会CM