決議・声明

「弁護士から警察等への依頼者密告制度の立法化」(ゲートキーパー立法)に反対する会長声明

2006.06.27

鹿児島県弁護士会は、2006年(平成18年)2月22日、「弁護士から警察等への依頼者密告制度」の立法化(ゲートキーパー立法)に反対する会長声明を出したが、ここに改めてゲートキーパー立法に対し断固反対するものである。

【1】政府の「国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部」は、2006年(平成18年)6月5日、「犯罪収益流通防止法案(仮称)」の「考え方」及び「概要」を発表し、その中で、弁護士に対し、

1. 疑わしい取引の届出義務を課すこと
2. 届出義務違反には是正命令を発すること
3. 国家公安委員会等が報告徴収、立入り検査等の権限を有すること
4. 是正命令違反、検査拒否等に罰則を定めること

を内容とする法案を策定中であることを明らかにした。

これは、2004年(平成16年)12月に策定された「テロの未然防止に関する行動計画」、そして、2005年(平成17年)11月に発表された「FATF 勧告実施のための法律の整備について」に基づくものであり、マネーロンダリング・テロ資金対策という大義名分のもと、いわゆる依頼者密告制度の立法化(ゲートキーパー立法)を職業専門家の分野について推し進めようとするものである。

【2】弁護士は、単に高度な職業専門家というだけでなく、依頼者の基本的人権と正当な法的利益を擁護することを職務の本質としている。この弁護士の職責を全うするためには、依頼者から全面的な信頼を受け、有利不利を問わずあらゆる事実を打ち明けてもらったうえで、依頼者にとって最善の方策を立案し遂行しなければならない。弁護士の守秘義務は、依頼者が、自らの秘密を安心して打ち明けられるよう保障する制度であり、弁護士の職務の適正な遂行のために不可欠な前提条件である。また、弁護士は、国民の基本的人権を擁護するために、国家権力の過ちも臆することなく正すことが出来なければならない。そのために、弁護士は政府機関から独立し、その監督を受けない職業として位置づけられており、同時に弁護士会にも高度の自治が認められている。これは、これまで弁護士が、人権擁護のため国家権力と闘ってきた長い歴史の中で獲得されたものである。

しかしながら、ゲートキーパー立法により、上述のような密告義務が弁護士に課されることになれば、弁護士制度の根幹である弁護士の絶対の守秘義務と政府機関からの独立が揺るがされ、もはや市民の弁護士への全面的な信頼は成立しない。

市民が、安心して秘密を打ち明け、適切な法的助言を求めることができる法律専門家を失えば、市民の司法へのアクセスは阻害され、市民の守られるべき法的利益も損なわれる。

【3】マネーロンダリング・テロ資金対策の必要性については理解できるが、我国において過去弁護士がマネーロンダリング等に関与していたとの事例報告はなく、このような密告義務を弁護士に課すことでマネーロンダリング等が防止できるとは考えられない。もし仮に、そのような事例があれば、弁護士は、弁護士倫理に反するものとして懲戒処分を受けることになり、また、関係法令によって処罰の対象となるのであって、既に十分な規制はなされている。

他方、上述のとおり、万が一、ゲートキーパー立法が成立した場合の国民の不利益は誠に甚大である。

【4】鹿児島県弁護士会は、弁護士が依頼者を警察はもとより他のいかなる政府機関に対しても密告する制度を決して容認することはできず、このような立法を阻止する運動を更に強力に押し進めることをここに表明する。

鹿児島県弁護士会 会長 川村 重春

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