決議・声明
鹿児島県警察における供述調書の改ざん事件を受け、直ちに取調べの全過程の
全面可視化(録画)を求める会長声明
2013年(平成25年)7月23日
鹿児島県弁護士会会長 柿 内 弘一郎
2013年(平成25年)6月13日付けの報道によれば、平成24年後半に暴力団組員が逮捕された事件で、鹿児島県警察組織犯罪対策課の暴力団担当の警部と捜査員2名が被害者を取り調べて、当初「容疑者とは面識がない」旨の被害者の供述調書を作成したが、その後の取調べで、被害者が「(容疑者と)面識があった」旨供述を変遷させたことから、警部らは最初に作成した被害者の供述調書に「面識があった」旨の供述を組み入れて、供述調書を改ざんしたという。
当会は、この報道に接し、鹿児島地方検察庁及び鹿児島県警察に対し、報道された事実の有無等について照会したが、鹿児島地方検察庁からは回答はなく、鹿児島県警察からは「回答すべき立場にない」との回答がなされた。
取調官が既に作成した被害者供述調書を事後に書き換える行為は、虚偽公文書作成罪などの犯罪に該当する可能性があり、違法というほかない。捜査機関は、内部調査の結果を速やかに明らかにするべきである。
今回は、偶々、改ざんの事実が公訴提起前に発覚したが、裁判官等がこれを見逃した場合には、被害者供述の信用性判断を誤らせ、被疑者に濡れ衣を着せる危険がある。よって、上記報道の取調官の行為は絶対にあってはならないことである。
被害者取調べの全過程も可視化していれば、上記のような違法な被害者取調べを未然に抑止できるだけでなく、そのことは真相解明に資するもので、えん罪の発生を防ぐことにも役立つことは論を俟たないところである。
ところで、当会は、密室取調室での組織的な自白強要の実態が明らかとなり、被告人とされた12名全員のえん罪が明らかになったいわゆる「志布志事件」を二度と繰り返さないために、関係機関に対し、取調べの全過程の全面可視化を繰り返し繰り返し申し入れてきた(2011年7月15日「被疑者・被告人と弁護人の秘密交通権の侵害を許さずに取り調べの可視化を会長声明」、2010年10月5日「無罪判決を契機に取調べの全面可視化を求める会長声明」、2009年11月9日「今すぐ取調べの全過程の可視化(録画)を求める会長声明」など)。
しかしながら、取調官が権限を濫用し既に作成した供述調書すら改ざんするという由々しき事件が発生したというのである。被害者取調べを含む取調べの全過程の全面可視化(対象事件の範囲を限定せず、また、例外のない取調べの全過程の全面可視化)を実施していれば、本件のような違法捜査は防げたはずである。
そこで、当会は、あらためて、密室取調室での取調官の権限濫用を防止し、ひいてはえん罪を防止するため、被害者取調べも含む取調べの全過程の全面可視化を直ちに実施・法制化することを強く求めるものである。