決議・声明

「大崎事件」第4次再審請求の特別抗告棄却決定に対する会長声明

2025.03.13

最高裁判所第三小法廷(石兼公博裁判長)は、2025年(令和7年)2月25日、いわゆる大崎事件第四次再審請求事件の特別抗告審につき、再審請求を棄却した鹿児島地方裁判所の原々決定、即時抗告を棄却した福岡高等裁判所宮崎支部の原決定を是認し、請求人の特別抗告を棄却した(ただし、本決定には、原決定及び原々決定を取り消して再審を開始すべきという宇賀克也裁判官の反対意見が付されているので、以下本決定を「本決定(多数意見)」といい、宇賀裁判官の反対意見を「宇賀反対意見」という)。

大崎事件は、1979年(昭和54年)10月、原口アヤ子氏が、元夫一郎、義弟二郎と計3名で共謀して義弟四郎を殺害し、その遺体を二郎の息子太郎も加えた計4名で遺棄したとされる事件である。アヤ子氏は逮捕時から一貫して無実を主張してきたにもかかわらず、確定審では、「共犯者」とされた一郎、二郎、太郎の3名の「自白」、「自白」で述べられた犯行態様と矛盾しない法医学鑑定、共犯者の親族の供述等を主な証拠として、原口アヤ子氏に対し、懲役10年の有罪判決が下された。

原口アヤ子氏は、満期服役後、3次に亘り再審請求を申し立てており、第一次再審請求審、第三次再審請求審、同即時抗告審において、3度の再審開始の判断を得ていた。ところが、2019年(令和元年)6月25日、最高裁判所第一小法廷(小池裕裁判長)は、新証拠である法医学鑑定は「死因」に関するもので「死亡時期」を示すものではなく、四郎が到着時に死亡していたことはあり得ず、即時抗告審の決定によれば遺体を遺棄した者は、最後に四郎と接触した近隣住民以外に想定し難いことになるが、そのような事態は想定できず、客観的状況に照らし、犯人としては、アヤ子氏ら以外には想定し難いとして、原々決定、原決定のした再審開始決定を取り消し、再審請求を棄却するという決定をした。

弁護団は、同決定を受け、第四次再審請求を直ちに申し立て、新証拠として被害者の「死因」及び「死亡時期」についての救命救急医の鑑定書(以下「医学鑑定」という)、近隣住民2名の供述について異なる専門的手法で分析した2種類の供述鑑定書を提出した。

ところが、本決定(多数意見)は、原決定及び原々決定が医学鑑定を「死因に関する鑑定」とのみ認定して、「確定審の法医学鑑定の証明力を減殺しても各確定判決の認定に合理的な疑いは生じない」として「新旧全証拠による総合評価」を行わず、結論として第三次最高裁決定を追認した。

これに対し、宇賀反対意見は、同医学鑑定を被害者の「死亡時期」について新たな知見を提供するものであり、「専門的知見に裏付けられた見解として尊重するに値する」と述べその信用性を認めた上で、医学鑑定によって近隣住民の供述、共犯者の自白等の信用性にも疑問が生じるため、「新旧全証拠の総合評価を行なう必要がある」とした。

さらには、2種類の供述鑑定書についても、異なる手法でなされた鑑定で、いずれによっても同じ結果が示されたことは両鑑定の信用性を高める要素であると述べ、両鑑定も新証拠たりうると明言した。

その上で、緻密な総合評価を行い、さらに共犯者らの知的障がいの事実にも言及して、供述弱者の供述の信用性については慎重に判断すべきとした。

また、共犯者とされる者の一人が否認している場合の「共犯者の自白は特に慎重に検討されるべき」として、「疑わしいときは被告人の利益に」という原則に照らせば、「アヤ子及び一郎らによる殺人という事実認定の正当性についての合理的な疑いが生じざるを得ない」として、「再審開始決定を行うべき」とした。

大崎事件は、これまでに3度も再審開始の決定がされており、無辜の救済を目的とする再審手続の中でもとりわけ慎重な判断が求められていた。

ところが、多数意見では、「共犯者」の自白や目撃供述について何ら具体的関係者供述の検討も行わず、ただ、共犯者らの供述の「信用性は相応に強固」と言い切り、再審請求を棄却した。

本件は、発生から45年の歳月が経過しており、97歳となった原口アヤ子氏を救済するには、必ずや存命中に再審無罪の言渡しを得て、無罪を確定しなければならない。

鹿児島県弁護士会は、最高裁の特別抗告棄却決定に強く抗議し、アヤ子氏らが無罪となるための支援を続けるとともに、再審における証拠開示の制度化や、再審開始決定に対する検察官の不服申立禁止を始めとする再審法改正を含め、えん罪を防止・救済するための制度改革の実現を目指して全力を尽くす決意である。

2025(令和7)年3月11日

鹿児島県弁護士会
会長 山 口  政 幸

一覧へ戻る

ページのトップへ戻る
新型コロナウイルスの影響で借入金返済にお困りの方へ
無料法律相談カレンダーのご案内
法律相談会場のご案内
法律相談窓口
司法過疎地域巡回無料法律相談
ひまわりほっとダイヤル
ひまわりお悩み110番
弁護士無料派遣
災害特設ページ
鹿児島県弁護士会へのお問合せ
鹿児島県弁護士会会員ページへログイン
鹿児島県弁護士会CM