決議・声明

「福井女子中学生殺人事件」再審開始決定に関する会長声明

2024.11.06

2024年10月23日、名古屋高等裁判所金沢支部(山田耕司裁判長)は、いわゆる「福井女子中学生殺人事件」第2次再審請求事件(請求人前川彰司氏)について、再審開始決定をした。

本件は、1986年3月、福井市内で女子中学生が殺害された事件である。前川氏は事件発生の1年後に逮捕されたが、その犯人性を基礎付ける客観的な証拠はなく、逮捕以来一貫して無罪を主張している。

確定審第一審(福井地方裁判所)は、変遷を重ねる関係者らの供述の信用性を否定し、1990年9月26日、無罪判決を言い渡した。ところが、確定審控訴審(名古屋高裁金沢支部)は、控訴審でも変遷した関係者らの供述が「大筋で一致」するとしてその信用性を認め、1995年2月9日、逆転有罪判決(懲役7年)を言い渡し、この有罪判決が最高裁で確定した。

前川氏は、2004年7月、第1次再審請求を申し立て、再審請求審(名古屋高裁金沢支部)において関係者らの供述調書の一部などが開示された結果、関係者らの供述の著しい変遷がより一層明らかになり、2011年11月30日、関係者らの供述の信用性が否定され再審開始決定がなされた。ところが、再審異議審(名古屋高裁)は、2013年3月6日、新証拠はいずれも旧証拠の証明力を減殺しないとして再審開始決定を取り消し、この判断は特別抗告審でも維持された。

2022年10月14日、前川氏は第2次再審請求を申し立てた。弁護団は新証拠として、関係者らの供述の信用性を弾劾する供述心理鑑定、確定審における犯行態様の認定(シンナー乱用による幻覚・妄想下での犯行と認定)を弾劾する精神医学鑑定や行動経過の認定(血をつけた状態で車に乗り複数箇所を移動したと認定)を弾劾するルミノール鑑定を提出した。また、三者協議において検察官に証拠開示を求め、裁判所の訴訟指揮もあり、警察保管の捜査報告メモを含む計287点の証拠が新たに開示された。さらに、本再審請求審において、確定審の第一審と控訴審とで供述を変遷させた関係者の証人尋問が実施された。

本決定は、これらの新証拠や証人尋問の結果を踏まえ、「疑わしきは被告人の利益に」の鉄則に従い、新旧証拠を総合評価した上で、確定判決において有罪認定の根拠とされていた関係者らの供述の信用性を否定し、「請求人が本件殺人事件の犯人であることについては合理的な疑いを超える程度の立証がされているとは認められず、請求人を犯人であると認めることはできない」として、再審開始を認めた。

さらに、本決定は、本再審請求審で開示された新証拠により、確定審当時の担当検察官が前川氏の無罪を裏付ける方向の重要な事実関係を認識したにもかかわらず、それを明らかにしなかったことについて、「不利益な事実を隠そうとする不公正な意図があったことを推認されても仕方がな」く、「公益を代表する検察官としてあるまじき、不誠実で罪深い不正の所為」であり、「適正手続確保の観点からして、到底容認することはできない」として厳しく非難した。

当会は、裁判所が再審における証拠開示や事案の解明に向けて積極的な訴訟指揮を行ったこと、そして本決定において新旧両証拠を総合評価して適切な事実認定をしたことを高く評価する。他方、確定審以来、証拠開示について消極的な姿勢に終始し、事案の解明及びえん罪被害の救済を阻んできた検察官に対して、異議申立てを行うことなく本決定が確定した現在においても、真摯な反省を求める。

また、本決定により、再審請求審における裁判所の積極的な訴訟指揮や証拠開示がいかに重要であるかが再認識された。加えて、前川氏が最初の再審開始決定を受けてから10年以上が経過してもなお再審公判を受けることができていない点には、再審開始決定に対する検察官の不服申立てが認められていることの弊害が表れている。

当会においても、事件後44年を経ても無実を叫び続け、97歳を迎えてもなお再審請求を続けている原口アヤ子氏(大崎事件)の雪冤に、会を挙げて取り組んでいるところであるが、大崎事件は、遅きに失した証拠開示や検察官の不服申立てによる3度の再審開始決定の阻止等、証拠開示規定の不備と検察官抗告という再審制度の不備に翻弄され続けている。

当会は、前川氏の再審開始決定を更なる追い風として、政府及び国会に対し、再審請求手続における証拠開示の制度化、再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止及び再審請求審における手続規定の整備を含む再審法改正の速やかな実現を、改めて強く求める。

2024年(令和6年)11月6日

鹿児島県弁護士会会長 山口 政幸

 

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