決議・声明
日野町事件の即時抗告審決定に対する会長声明
大阪高等裁判所第3刑事部は、昨日、いわゆる日野町事件第2次再審請求事件の即時抗告審について、検察官の即時抗告を棄却し、再審開始を支持する決定を行った。
同事件は、滋賀県蒲生郡日野町で酒店を営む女性店主が、1984年(昭和59年)12月28日夜から翌朝までの間に行方不明となり、翌1985年(昭和60年)1月18日、日野町内の宅地造成地の草むらの中で死体が発見され、さらに同年4月28日、同町内の山中で被害者所有の手提げ金庫が発見された強盗殺人事件である。
酒屋の常連客であった阪原弘氏は、3年以上が経過した1988年(昭和63年)3月9日から12日までの連日、日野署に呼び出され、早朝から夜遅くまで長時間の取り調べを受けた結果、自白をさせられ、逮捕・起訴された。阪原氏は、公判以降は一貫して犯行を否認して争ったが、無期懲役の有罪判決が言い渡され、確定した。
阪原氏は、2001年(平成13年)11月、再審を申し立てたものの、2006年(平成18年)3月27日、大津地方裁判所は再審請求を棄却した。これに対し、阪原氏は大阪高等裁判所に即時抗告を申し立てたが、実質的な審理が行われない中で2011年(平成23年)3月18日、阪原氏は服役中に他界し、同月30日、審理は終了した。
第2次再審請求は、その1年後の2012年(平成24年)3月30日、阪原氏の遺族によって申し立てられたものである。
第2次再審においては、弁護団の証拠開示請求に対し、裁判所の訴訟指揮もあり一部の証拠が開示された。確定有罪判決が最も拠り所とした事実は、阪原氏が何の誘導も受けることなく手提げ金庫の発見場所を案内できたという事実であったが、開示された写真のネガから、上記捜査状況を報告した書面の写真の順番が入れ替えられており、手提げ金庫発見場所まで行った復路で、目的地に向かっている演技をさせた写真を撮り、これを往路の写真として貼付し、説明していることが判明した。
これらを受けて、2018年(平成30年)7月11日、大津地方裁判所は再審を開始する決定を行った。ところが、検察官がこれに対し即時抗告を申し立てた。
昨日の決定は、この検察官の即時抗告に対するものであり、その結論は正当なものと評価できる。
しかしながら、検察官の不服申し立てによって再審開始決定から4年半以上もの長い年月が経過した。
検察官は、昨日の決定を受け入れ、特別抗告を行うことなく再審公判に臨むべきである。
わが国の再審制度は、不利益再審が廃止された以外は旧刑事訴訟法の規定をそのまま引き継いだものでありその規定は極めて不十分である。そのため、迅速かつ適切にえん罪被害者を救済する制度として十分に機能しているとは言いがたい状況にある。日野町事件では、有罪判決を受けた本人である阪原氏は、雪冤を果たせないまま他界するという悲痛な結果となったが、再審規定の不十分さもその大きな一因である。
今後このような悲劇を繰り返さないためには、再審制度が、えん罪被害者の救済制度として相応しい内容となるよう、証拠開示の法制化、再審開始決定に対する検察官の抗告禁止を含む再審手続の整備がなされる必要がある。
当会においても、事件後43年を経てなお、無実を叫び続け、証拠開示の不備と検察官抗告という再審制度の不備に翻弄されながら再審請求を続けている原口アヤ子氏(大崎事件)の雪冤に、会を挙げて取り組んでいるところである。
したがって、当会は、1日も早く亡阪原氏のえん罪が晴らされることを切望するとともに、早急に再審に関する刑事訴訟法の規定の改正がなされることを求める次第である。
2023年(令和5年)2月28日
鹿児島県弁護士会
会長 神川 洋一