決議・声明
「大崎事件」第2次再審請求棄却決定に関する会長声明
本日,鹿児島地方裁判所刑事部は「大崎事件」に関する第2次再審請求事件(請求人 原口アヤ子さん及びアヤ子さんの元夫で共犯者の1人とされた男性の遺族)について再審請求を棄却する決定をした。
大崎事件は1979年10月12日の夜,酔って道路脇に寝ているところを隣人2名に車で自宅へ運ばれた被害者の行方が,その後分からなくなり,同月15日の昼過ぎに被害者の牛小屋の堆肥の中から遺体となって発見された事件である。
アヤ子さんは逮捕以来1度も自白することはなかったが,確定一審判決は共犯者とされた3人の自白供述をほとんど唯一の証拠として有罪とした。共犯者とされた1人はアヤ子さんの元夫で,自らの公判廷では自白し,刑も確定していたが,アヤ子さんの控訴審では,アヤ子さんも自分も事件に関与していないと証言した。しかし,控訴審,上告審でも無実の訴えは棄却された。
アヤ子さんは1995年4月19日第1次再審請求をし,2002年3月26日鹿児島地方裁判所は再審開始を決定した。しかし福岡高裁宮崎支部はその決定を取消し,請求を棄却し,最高裁も特別抗告を棄却した。
本件は2度目の再審請求である。新証拠として,新たな法医学鑑定書,供述心理鑑定書等が提出された。しかしながら,鹿児島地方裁判所はそれらの新証拠について十分な検討を加えることなく,アヤ子さん及び元夫の遺族による無実の訴えを退けた。
本決定の問題点は,まず,弁護人は,共犯者とされる3名には知的障がいが存在し,自己を防御する能力を充分持たず,取調べ段階でも法廷でもこの障がいに対して配慮が足りなかったことを指摘し,その供述の信用性の判断は慎重にされるべきであると主張したが,その点に関する十分な考察がなされていない点である。
しかし,何よりも本決定の最大の問題点は,その審理の過程における裁判所のあまりに消極的な審理態度である。裁判所は,専門的知見に基づき法医学鑑定,供述心理鑑定を行った鑑定人らに対する証人尋問すら実施せず,これらの新証拠の証拠価値を十分に検討することを怠った。
さらには,検察官が第1次再審請求時に収集した証拠について作成した標目につき,弁護人の再三にわたる開示要請にもかかわらず,裁判所は標目の開示を求めることもなく,棄却決定に至った。
「布川事件」,「東電OL殺人事件」においては検察官の手持ち証拠の開示がなされたことが再審開始,さらには再審無罪への有力な要因となったことは周知のとおりである。本決定はそのような証拠開示の流れに反するものであり,再審事件を審理する裁判体の姿勢によって請求人の救済に格差がでるような事態はあってはならないものである。
本決定は,一度も自白することなく,一貫して無罪を訴え続け,刑務官からの「罪を認めれば仮釈放」という誘いも拒否し,満期服役をしたアヤ子さんの訴えを十分に審理することもなく棄却したものであり,無辜の救済・人権擁護の最後の砦である再審制度の意義を無視するものである。
当会は即時抗告審において充分な審理がなされ,今回の再審請求棄却決定が取り消され,再審が開始されることを期待するとともに,今後とも本再審事件への支援を続けていくものである。
2013(平成25)年3月6日
鹿児島県弁護士会
会長 新 納 幸 辰