決議・声明

公契約法及び公契約条例の制定を求める会長声明

2012.11.08

公契約法及び公契約条例の制定を求める会長声明

意見の趣旨

当会は、鹿児島県内の各地方自治体に対し、公契約により民間の企業・団体が受注した業務に従事する労働者の労働条件の適正さを確保することを目的とした条例(公契約条例)を積極的に制定することを要請する。

また、国に対し、上記趣旨を踏まえた法律(公契約法)を制定すること、及び全国の地方自治体に対する公契約条例制定に向けた支援をすることを要請する。

意見の理由

1 公契約に基づく業務に従事する労働者の賃金などの実情
国や地方自治体は、行政目的遂行のために、公共工事の発注や様々な公的な業務の委託を行う契約(公契約)をしており、従来、国や地方自治体が直接行ってきた業務についても民間の事業者に委託する契約が増加している。
そして、こうした公契約に基づく業務に従事する労働者も多数存在しているが、近時、そうした労働者の賃金や労働条件の劣悪さが問題となっている。
国や地方自治体は、財政難により公共サービスの効率化やコストダウンが求められ、特に地方自治体の発注工事では、低入札価格調査基準価格や最低制限価格を下回る額で応札される案件が年々増加傾向にある。
また、受注業者は過当競争ともいうべき状況にあり、その結果、低価格の公契約が増大しやすい状況にある。
特に、競争入札方式においては、落札するために前年度の落札額をさらに下回る価格の提示が事実上必要となっており、多くの自治体で、毎年、落札額の低下という事態が生じている。
このため、受注先である民間企業の経営悪化と労働者の賃金・労働条件の著しい低下や非正規雇用労働者の拡大という問題が生じている。
なお、公共工事の発注契約では、適正な資材費や賃金の支払いを確保し手抜き工事やダンピングを防止するために、入札に当たって最低価格を設定する場合が多い。また、最低制限価格などの事前公表等により適正な価格で公契約が締結されるよう配慮する場合もある。
しかし、現実には、元請・下請・孫請という重層構造の中で、下請や孫請は受注価格が削減され、その受注企業の経営を圧迫し、その業務に直接従事している労働者に低賃金が押しつけられる状況にある。
一般的に「ワーキングプア」が社会問題となっていることは、マスコミによる報道により広く知られているところであるが、上記のような公契約に基づく業務に関するものについては「官製ワーキングプア」とも言うべきものであり、早急な対策が必要である。
2 公契約法・公契約条例の意義
公契約法や公契約条例を制定して、国や地方自治体から業務を受注する民間の業者に対し、受注業務に従事する労働者に一定の労働条件を確保することを受注条件として課すことによって、公契約を受注しようとする業者間の過当な価格競争が労働者にしわ寄せされることを防止できる。
これにより、公的資金を用いた公共性の高い事業から劣悪な労働環境を生み出すような事態を防ぎ、公契約の受注に関して業者に公正な競争を行わせることが可能となる。
また、公契約に基づく業務に従事する労働者に適正な労働条件を確保させることは、公共サービスの質の向上につながり、サービスの提供を受ける市民にとっても重大な意味を持つものである。
なお、公契約受注の過当競争が提供されるサービスの質の悪化につながることを防止するために、入札にあたって最低制限価格を設定する場合も見られるが、受注業務が元請・下請・孫請といった重層構造のもとで実施されることも多く、元請の利益確保のために、下請や孫請は受注価格が削減され、業務に直接従事している下請・孫請の現場労働者に低賃金が押しつけられるという問題が生じていることは前述のとおりであり、元請の入札にあたって最低制限価格を設定するのみでは、現場労働者の労働条件向上にはつながりにくい。
この点、公契約法や公契約条例が制定され、下請以下の労働者の労働条件も規制の対象とされれば、重層構造下の現場労働者に対しても一定の適正な労働条件を確保することが可能となる。
3 公契約法・公契約条例の現状
以上のとおり、公契約法・公契約条例には様々な意義がある。
そして、公契約に関する規制については、国際的にはILO94号条約(公契約における労働条項に関する条約)が存在し、現在60カ国を超える国が同条約を批准している。
また、フランス、アメリカ、イギリス、ドイツなどは国単位で公契約に対する法的規制を設けている。特にアメリカでは,リビングウェッジといわれる条例が制定されているが、同条例については労働者全体の賃金を引き上げる推進力になっているとの報告もされているとのことである。このように、公契約による労働条件の規制の必要性・重要性は世界規模で認識されている。 わが国ではILO94号条約に批准しておらず、公契約法を制定する動きもない。しかし、地方単位では、千葉県野田市議会が平成21年9月に公契約条例を全会一致で成立させたことを皮切りに、神奈川県川崎市、相模原市、東京都多摩市、国分寺市、渋谷区において公契約条例が成立し、現在でも北海道札幌市が公契約条例制定を検討しているとのことである。 特に、日本で最初に公契約条例を制定した野田市では業務委託の賃金が上昇するなど、労働条件改善に向けた成果も出てきている。このように、劣悪な労働条件からの労働者の保護、地域経済の活性化、市民のための充実した公共サービスの実現などの理念の実現に向けられた自治体の取組みは徐々に広がりを見せている。
4 まとめ
平成23年4月14日付の日本弁護士連合会「公契約・公契約条例の制定を求める意見書」でも指摘されているとおり、公契約法・公契約条例は深刻な社会問題化しているワーキングプア問題解決の大きな糸口となるものと考えられる。
したがって、当会は、上記意見の趣旨記載のとおり、鹿児島県内の各地方自治体に対し、公契約条例を積極的に制定することを要請し、また、国に対し、公契約法を制定すること、及び全国の地方自治体に対する公契約条例制定に向けた支援をすることを要請する。

以上

2012(平成24)年11月8日

鹿児島県弁護士会 会長 新納幸辰

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