決議・声明
遠隔操作による脅迫メール事件等の取調べについての会長声明
ウェブサイトに犯罪予告の書き込みをしたり、脅迫メールを送りつけたりしたとして逮捕されていた方々が、真犯人からパソコンを遠隔操作されていたことが明らかになった一連の事件について、捜査機関は、逮捕された4名の方に対し、誤認逮捕であったことを認め、謝罪した。
これらの事件については、捜査方法、逮捕・勾留手続の適否等について、今後十分に検証する必要があるが、とりわけ、2名(うち少年1名)について、自白調書が作成されていたことを見過ごしてはならない。報道によれば、供述調書には、ありもしない「動機」までが書かれているとのことである。全く身に覚えのない犯罪について、自らが行ったと認める内容の調書が作成され、動機までが記載されたとすると、自白の強要や誘導等、違法あるいは不適切な取調べがあったと考えざるを得ない。
その結果、上記少年に対しては、保護観察処分がなされ、取り返しのつかない重大な事態を招いた。
こうした虚偽自白の原因は、弁護人の立会いが認められず、密室で行われる現在の取調べの構造的な在り方にあることは、当会がこれまで指摘してきたとおりであり、志布志事件等、過去に起こった数々のえん罪事件の教訓が活かされずにいることは極めて遺憾である。取調べの全過程の可視化は、虚偽自白防止の観点から、もはや一刻の猶予も許されない。
また、虚偽の自白調書が作成されていなかったケースについても、被疑者とされた方の言い分に対し、どのような取調べがなされたか、特に、捜査官の思い込みによる自白の強要や誘導がなされていなかったか、徹底的に検証されるべきである。志布志事件等においてその検証が不十分であったことが、今回のようなえん罪につながっていることを猛省しなければならない。
今回は、幸いにも真犯人がほかにいることが明らかになったが、そうでなければ、隠れたえん罪となっていたであろう。今回の一連の事件は、虚偽自白による隠れたえん罪は、決して稀なものではなく、現在も起こり続けていること、誰にでも起こりうることを示している。
現在、法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」では、取調べの在り方についての改革、とりわけ取調べ全過程の録画の法制化が議論されているが、法制化の必要性は本件によって一層明らかになったといえよう。当会は、えん罪の防止と取調べの検証の実効性確保のため、取調べ全過程の録画を早急に法制化すること、さらに、捜査機関に対しては、法制化前においても、ただちに取調べの全過程の録画を実施することを強く求めるものである。
2012(平成24)年10月30日
鹿児島県弁護士会
会長 新納 幸辰