決議・声明
改正貸金業法の完全施行後2年を迎えての会長声明
深刻な多重債務問題解決のために,2006年(平成18年)12月に改正貸金業法が成立し,出資法の上限金利の引下げ,収入3分の1を超える過剰貸付契約の禁止(総量規制)などを含む同法が,2010年(平成22年)6月18日に,完全施行された。
その後2年を経過した現在,5社以上の借入れを有する多重債務者が法改正時の230万人から44万人に激減し,自己破産者は17万人から10万人に,多重債務による自殺者は1973人から998人に半減するなど,同改正は多重債務問題解決のために確実に大きな成果を上げている。
当会の多重債務相談においても,法改正前の平成21年度は相談件数が886件であったものが,法改正後の平成22年度は620件,平成23年度は352件と法改正前の相談件数から半分以下の約6割も減少しており,法改正は多重債務対策として当県でも大きな成果を上げている。
ところが,昨今,上限金利を年30パーセントに引き上げる金利規制の緩和や総量規制の撤廃を求め,貸金業法を「再改正」する動きが一部に見られる。「再改正」の根拠として,改正貸金業法のために貸付けを受けられない者が増加し,あるいは,ヤミ金融に流れているなどと言われている。しかしながら,貸付けを受けられない者が増加し,あるいは,ヤミ金融に流れているといった具体的な事実は認められない。
むしろ,ヤミ金被害については,全国の消費生活センターに持ち込まれた相談件数について平成20年には約3000件あったものが平成23年には1000件を割り込むまでに減少し,また,被害金額についても,平成20年には約300億円であったものが平成23年には約120億円と減少するなど,警察の継続的集中的取締りや官民を挙げた一連のヤミ金対策が結果を出している状況にある。
また,貸付けを受けられない者の点についても,そもそも経済的にひっ迫し貸付けを受けられない者に高利融資をしてもその者の生活や事業が破綻するだけで長期的に見れば救済されるわけではない。
経済的にひっ迫した市民や事業者の救済には,高利融資に頼らなくても生活できるセーフティネットや低利融資制度の拡充こそが求められる。更に言えば,ヤミ金は犯罪であり,その徹底的取締りこそが求められるのであって,改正貸金業法の規制を緩和することで解決すべき問題ではない。
以上のとおり,現在議論されている方向で貸金業法を「再改正」する必要はない。
当会は,改正貸金業法が完全施行されてから2年を迎えるにあたり,改正貸金業法の成立及び完全施行を改めて評価するとともに,貸金業法の規制緩和の動きに強く反対すると同時に,今後とも無料多重債務相談を積極的に推し進め,残された諸課題にも積極的に取り組んでいくことをここに表明する。
2012年(平成24年)8月21日
鹿児島県弁護士会
会長 新納 幸辰