決議・声明
性犯罪報道に関する要望書
平成23年4月13日
報道各社 各位
鹿児島県弁護士会 会長 福元 紳一
同 犯罪被害者支援委員会委員長 堂免 修
当会は,報道各社に対し,次のとおり要望いたします。
【第1 要望の趣旨】
性犯罪の報道にあたっては,被害者のプライバシー,人格権等の人権を最大限尊重すべきであるという観点から,報道の内容により視聴者に被害者が推知されることのないよう,社内におけるマニュアルの整備・研修等の実施による周知徹底,デスク等の報道責任者によるチェック体制の強化等,特段の配慮をお願いしたい。
【第2 要望の理由】
1 鹿児島県内のマスメディアによる不適切報道事例の発生
平成22年10月20日,鹿児島地方裁判所で判決言渡しのあった強姦致傷事件について,判決当日,某テレビ局のニュース番組において「隣室女性に暴行した男に懲役7年」とのタイトルで,「○○市の無職・○○被告」が「自宅アパートの隣の部屋に押し入って女性に乱暴し」たとの報道がされた。
被告の住所を市町村レベルで特定した上で,被害者が,被告の自宅アパートの隣室に居住していたと報じられたことで,少なくとも近隣の者等であれば十分被害者を推知しうる内容であった。
さらに,上記報道の後,同じ表現によるニュース原稿が同テレビ局のホームページ上にアップされ,平成23年1月25日に同事件の被害者本人が偶然これに気付き,上記事件の被害者参加弁護士を通じての抗議により削除されるまでの約3か月間,不特定多数の者が上記ホームページの内容をで閲覧できる状態にあったことが判明した。
なお,本件は裁判員裁判対象事件であったが,裁判においては被害者のプライバシーに対する最大限の配慮がされ,起訴状朗読,冒頭陳述,証拠調べ,論告,弁論のいずれにおいても被害者の住所・氏名等の個人情報が法廷に顕出されることはなかった。
2 上記不適切報道による被害者本人への影響
被害者は,上記事件による被害後PTSD(心的外傷後ストレス症候群)に罹患し,第1審では法廷に出廷することができず,国選被害者参加弁護士が被害者本人に代わって被告人質問や被害者意見陳述を行った。
その後,本件は被告人から控訴がなされた。控訴審係属当時,やや回復に向かっていた被害者は控訴審の法廷では自ら出廷する意向を示していたが,上記ホームページを閲覧したことにより,周囲の者に自分が本件の被害者だということが判明したのではないかという不安と恐怖から,再びPTSDが悪化し,主治医から「自宅から30分以上の移動を禁止する」という診断書が出されたため,被害者は結局控訴審の法廷にも出廷できぬまま,審理手続が終結した。
3 マスメディア全体に対する注意喚起の必要性が高いこと
上記不適切報道の発覚後,本件の被害者参加弁護士において,上記テレビ局に対し,不適切報道を見落とした原因究明のための社内調査,関係者の処分,具体的な再発防止策の検討を要請し,現在同テレビ局により真摯かつ迅速な対応がされているところである。
しかし,同様の問題は他社でも起こりうるものであり,かつ,一度このような報道がされると,被害者は回復困難なダメージを受けることから,報道各社においても問題意識を共有していただき,対策を講じていただく必要があると考える次第である。
4 まとめ
よって,当会は,報道各社に対し,上記のとおり要望するものである。
以上