決議・声明
いわゆる共謀罪の創設を含む改正組織的犯罪処罰法の成立に抗議する会長声明
平成29年6月21日
鹿児島県弁護士会
会長 馬場竹彦
本年6月15日、いわゆる共謀罪の創設を含む組織的犯罪処罰法改正案(以下「本法案」という。)について、参議院本会議において、参議院法務委員会の中間報告がなされた上で、同委員会の採決が省略されるという異例な手続により、本会議の採決が行われ、成立した。
当会は、いわゆる共謀罪法案が我が国の刑事法体系の基本原則である行為処罰・既遂処罰の原則に反するものであり、その要件として新たに規定される「準備行為」は日常的な行為を含む広範な行為が該当し得るもので処罰範囲の限定足りえず、犯罪主体を「テロリズム集団その他の」組織的犯罪集団と規定したり、また、「資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための」準備行為が必要とされ準備行為は計画に「基づき」行われることを明記したとしても、それらの新たな「概念」が極めて曖昧であるが故に捜査機関の恣意的な解釈・運用を許し、その取締りのために盗聴等の人権侵害のおそれがある捜査手法が広く用いられ、市民に対する「心の中の監視」がはびこる社会を招来し、表現の自由や思想・内心の自由を侵害し、ひいては民主主義の根幹を揺るがしかねないことを非難してきた。
さらに政府が創設の根拠とする「国連越境組織犯罪防止条約」はテロ防止を目的とするものではなく、テロ対策には現行法による対応が可能であるにもかかわらず、当該法案の適用対象となる犯罪は277に上り、かかる広範な処罰規定を新設する必要性、つまりそもそもの立法事実に重大な疑問が存することなどを併せて指摘し、本法案の成立に反対してきた。
本国会における政府の説明でも、なお「一般市民」、「組織的犯罪集団」「準備行為」との基準は不明確なままであること、計画段階の犯罪の成否を見極めるために、メールやLINE等を対象とする捜査が必要になり、通信傍受の拡大など監視社会を招来しかねないこと、及び277にも上る対象犯罪の妥当性や更なる見直しの要否についても、十分な審議が行われたとは言い難いことなどの様々な懸念は払拭されていない。本法案は、我が国の刑事法の体系や基本原則を根本的に変更するという重大な内容であり、また、報道機関の世論調査において、政府の説明が不十分であり、今国会での成立に反対であるとの意見が多数存していたにもかかわらず、衆議院法務委員会において採決が強行され、また、参議院においては上記のとおり異例な手続を経て成立に至ったことは、議会制民主主義の否定と言わざるを得ない。
当会は、過去に何度も廃案になりながら、問題点が何ら解消されないまま、十分な審議を経ずして、国会法の例外規定まで用いて採決が強行された共謀罪法案の成立に対して強く抗議するとともに、同法の廃止に向け、全力で取り組む所存である。