決議・声明
陳情書(鹿児島県議会議長宛)
2010(平成22)年3月5日
陳 情 書
鹿児島県議会
議 長 金子 万寿夫 殿
陳 情 者 鹿児島市易居町2番3号
鹿児島県弁護士会
会 長 森 雅美
陳 情 の 趣 旨
鹿児島県議会が、地方自治法第99条の規定に基づき、国会及び関係行政庁に対し、すべての人が多重債務に陥らないように、現存する多重債務者が早期に救済されるよう、下記の施策を国に対して求める意見書を提出することを採択していただくよう陳情します。
記
1 改正貸金業法を早期に(遅くとも本年6月までに)完全施行すること。
2 自治体での多重債務相談体制の整備のため相談員の人件費を含む予算を十分確保するなど相談窓口の充実を支援すること。
3 個人及び中小事業者向けのセーフティネット貸付をさらに充実させること。
4 ヤミ金融を徹底的に摘発すること。
陳 情 の 理 由
1 深刻な多重債務問題
1990年代における山一証券、北海道拓殖銀行の破綻などに象徴されるいわゆるバブル崩壊後の経済危機の際は、貸金業者に対する不十分な規制の下に商工ローンや消費者金融が大幅に貸付を伸ばし、その結果、1998年には自殺者が3万人を超え、自己破産者も10万人を突破するなど多重債務問題が深刻化し、その後自殺者は2009年まで継続して3万人を超え、2003年には24万人もの自己破産者が発生する状況になりました。
これら深刻な多重債務問題の大きな要因となってきたのがクレジット・サラ金・商工ローンなどの貸金業者の高金利、過剰与信、過酷な取立て及び大量宣伝などでした。
2 国民的な運動の成果としての貸金業法改正
こうした多重債務問題の解決をめざして、2006年には消費者金融の高金利の引き下げ等を求めて法曹界や労働者福祉団体・被害者団体などが結束し、幅広い国民的な運動を繰り広げてきました。341万筆にも及ぶ請願署名や、43都道府県、1,136市町村議会での意見書採択などにより世論、政府を動かし、最終的に、2006年12月、貸金業界等の抵抗にも関わらず、貸金業法の画期的な改正という大きな成果をあげました。
政府も多重債務問題の深刻さを認識し、多重債務者対策本部を設置し、2007年4月に同本部は(1)多重債務相談窓口の拡充、(2)セーフティネット貸付の充実、(3)ヤミ金融の撲滅、(4)金融経済教育を柱とする多重債務問題改善プログラムを策定しました。現在では多くの自治体も多重債務問題に取り組み、官民が連携して多重債務対策を実施した結果、多重債務者が大幅に減少し、2008年の自己破産者数も13万人を切るなど多重債務対策は確実に成果をあげつつあります。
そして、出資法の上限金利の引下げ、収入の3分の1を超える過剰貸付契約の禁止(総量規制)などを含む改正貸金業法が完全に施行されれば、貸金業者の高金利、過剰与信等が是正され、政府、自治体の多重債務対策も相まって、多重債務問題はさらに改善されることになります。
3 改正貸金業法の完全施行の必要性
他方、一部には、消費者金融の成約率が低下しており、借りたい人が借りられなくなっている、特に昨今の経済危機や一部商工ローン業者の倒産などにより、資金調達が制限された中小企業者の倒産が増加している等と殊更に強調して、改正貸金業法の完全施行の延期や貸金業者に対する規制の緩和を求める論調があります。
金融庁の資料によりますと、2009年12月現在、サラ金などのキャッシングの利用者は1,376万人を超え、その平均借入残高は81万円です。うち3ヶ月以上延滞している人数は301万人です。完全施行が遅れれば遅れるほど、この中からまた新たな多重債務者が生み出されることになります。失業や離婚などの家庭崩壊、家出、自殺、犯罪の誘発などの深刻な社会問題だけでなく、地方自治体の財政を悪化させ、地域社会を荒廃させる多重債務問題の解決は国民的課題です。
改正貸金業法の完全施行の先延ばし、金利規制などの貸金業者に対する規制の緩和は、自殺者や自己破産者、多重債務者の発生を放置することに他なりません。今、多重債務者のために必要とされる施策は、相談体制の拡充、セーフティネット貸付の充実及びヤミ金融の撲滅などです。
4 そこで、今般設置された消費者庁の所管ないし共管となる地方消費者行政の充実及び多重債務問題が喫緊の課題であることも踏まえ、国に対し多重債務問題解決のため陳情の趣旨記載の施策を求めるための意見書を国会及び関係行政庁に対して提出することを採択していただくよう陳情します。
なお、当会も昨年8月26日に同様の内容の会長声明を出しています。
以上