決議・声明

鹿児島地裁における裁判員裁判第一号事件の公判開始にあたっての会長声明

2009.11.24

 本日、鹿児島地裁における、初めての裁判員裁判が始まりました。
 これまで、わが国の刑事裁判では、「人質司法」といわれるように、身体拘束を受けた被疑者が密室での取調べで自白を強要され、自白しない限り保釈が認められないという状況がありました。こうした状況の下で、刑事裁判においては、職業裁判官が法廷における証言よりも捜査官の作成した供述調書を重視して判断を下すという調書裁判の弊害や無罪推定の原則の有名無実化ともいうべき状況が生まれていたことは否定できません。最近明らかになった志布志事件や足利事件などの冤罪事件は、わが国の刑事裁判が抱えている問題が現在でも存在することを示しています。
 裁判員裁判においては、裁判員が法廷で直接見聞した証拠に基づいた判断を行うことになり、調書裁判からの脱却が期待されています。また、多様な社会的経験を有する市民が参加することによって、市民の社会常識を刑事裁判に反映させることにより、刑事裁判の民主化が期待されます。
 しかし、一方で、裁判員裁判においては、検討すべき課題が多いことも事実です。マスメディアの報道等によって刑事裁判の大原則である無罪推定の原則や証拠裁判主義がないがしろにされるようなことがあってはなりませんし、迅速な裁判の名の下に適正・公平な裁判が害されるような拙速裁判が行われることは許されません。また、上記のような自白偏重による冤罪を防止するためには、捜査当局の取調全過程の可視化が必要不可欠です。裁判員の守秘義務負担により、裁判員裁判に関する検証作業が困難になるような状況となれば、守秘義務の緩和についての提言も検討しなければなりません。
 当会及び会員は、鹿児島地裁において裁判員裁判第一号事件の公判が始まったこの意義ある日に、被告人の正当な権利擁護のために弁護人として弁護活動に一層の力を尽くすとともに、裁判員裁判をより良い制度とするために制度のあり方を検証し、運用改善と制度改革に取り組んでいく決意を表明するものです。
以上

2009(平成21)年11月24日
鹿児島県弁護士会 会長 森 雅美

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