決議・声明
死刑執行に強く抗議し、死刑執行を停止し、死刑制度について全社会的議論を求める会長声明
本年3月25日、大阪拘置所及び福岡拘置所においてそれぞれ1名の死刑が執行された。今回の執行は、岩城光英法務大臣の就任後2回目、第二次安倍内閣以降9回目であり、当会は、改めて今回の死刑執行に強く抗議する。
岩城法務大臣は、前回の執行からわずか約3か月後に再び死刑を執行した。岩城法務大臣が昨年12月18日に死刑を執行したことに対し、当会は、平成27年12月24日、死刑執行に抗議する会長声明を公表し、死刑執行の停止とともに死刑制度についての全社会的議論の場を設けること等を求めていた。そうであるにも拘わらず、岩城法務大臣は、全社会的な議論の場を設けるわけでもなく、死刑執行を停止するでもなく、今回、死刑執行を断行したものであり、極めて遺憾である。
当会は、会内に死刑廃止検討プロジェクトチームを設置し、死刑のない社会を目指してどのような活動を行うべきかについて議論を重ねるとともに、死刑の執行方法に関する勉強会、シンポジウムの開催、死刑に代わる代替刑に関する検討などを通じて、市民とともに死刑制度の問題点を検討し、死刑制度について全社会的議論を呼びかけてきた。また政府に対し、死刑執行の停止と、死刑に関する情報の公開を求めてきた。
しかし、この間、刑場の状況や死刑確定者の処遇について一部公開されたものの、なお、十分な情報の公開がなされたとは言えず、死刑制度について全社会的議論は全くと言ってよいほど行われていない。
また、2014年(平成26年)3月27日には、袴田巖氏の第二次再審請求事件について、静岡地方裁判所が再審の開始と死刑及び拘置の執行を停止する決定を行った。死刑が取り返しのつかない制度であることに警鐘を鳴らしている。袴田事件に端を発し、現在では、捜査の在り方や死刑制度の問題点についての社会的な関心が高まっている状況が続いているところ、このような時期に死刑を執行したことはおよそ是認できない。
死刑廃止は、国際的な趨勢であり、世界で死刑を廃止し、または停止している国は140カ国となっており、全世界の3分の2以上の国において死刑の執行はなされていない。2013年(平成25年)5月29日には、国連拷問禁止委員会の総括所見が採択され、日本政府は、死刑制度を廃止する可能性についても考慮するよう求められている。さらに、2014年(平成26年)7月23日には、国連人権(自由権)規約委員会が日本政府に対し、「死刑の廃止を十分に考慮すること」との勧告を行っており、政府は、かかる勧告を無視して執行したことになる。
当会は、政府に対し、今回の死刑執行に対し強く抗議するとともに、改めて死刑執行を停止し、死刑に関する情報を広く国民に公開することを要請するのみならず、死刑制度についての全社会的議論の場を設け、死刑制度の抜本的な検討及び見直しを行うことを求めるものである。
2016年(平成28年)3月31日
鹿児島県弁護士会会長 大 脇 通 孝