決議・声明
死刑執行に関する会長声明
1.法務省は、2008年4月10日、東京拘置所および大阪拘置所において、各2名合計4名の死刑確定者について死刑を執行したとして、同人らの実名とともに発表した。今回の死刑執行は、平成18年12月の4名、平成19年4月の3名、同年8月の3名、同年12月の3名、そして本年2月の3名に続くもので、近年にない異様なペースで死刑が執行されている。
日本弁護士連合会は、死刑制度の存廃について国民的な議論が尽くされるまで死刑の執行を停止するよう、これまで再三にわたって法務省に対し要請してきたが、本年2月の死刑執行から僅か2ヶ月余りの間に、さらなる執行がなされた。これは、法務省が昨年の9名に対する執行に続き、本年も積極的に死刑を執行する姿勢を示したもので、実質的な自動執行を思わせるものである。
2.我が国では、4つの死刑確定事件(いわゆる免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件)について再審無罪判決が確定している。また、昨年4月にも、佐賀県内で3名の女性が殺害されたとされる事件(いわゆる北方事件)で死刑求刑された被告人に対する無罪判決が確定した。このような実例は、死刑対象事件についても誤判や誤った訴追があることを明確に示している。また、死刑と無期懲役刑の選択についても、裁判所の判断が分かれる事例が相次いで出されており、その明確な基準が存在しない。
それだけでなく、我が国の死刑確定者に対しては、これまで過酷な面会・通信の制限がなされ、死刑確定者の再審請求、恩赦出願などの権利行使にとって大きな妨げとなってきた。今般、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律が施行されたが、未だ死刑確定者と再審弁護人との接見に施設職員の立ち会いが付されるなど、死刑確定者の権利行使が十分に保障されているとは言い難く、このような状況で直ちに死刑が執行されることには重大な問題がある。
3.国際的にも、1989(平成元)年に国連総会で採択された死刑廃止条約が1991(平成3)年7月に発効して以来、2007年12月24日現在、死刑存置国62か国、死刑廃止国135か国と、死刑廃止が国際的な潮流となっている。
そのような潮流の中で、国連人権委員会(2006年国連人権理事会に改組)は、1993(平成5)年11月4日及び1998(平成10)年11月5日の2回にわたり、日本政府に対し、死刑廃止に向けた措置をとるよう勧告した。
また、昨年12月18日には、国連総会本会議において、すべての死刑存置国に対して死刑執行の停止を求める決議案が圧倒的多数で採択され、上記決議の採択に先立ち、昨年12月7日の我が国における死刑執行に対しては、国連人権高等弁務官から強い遺憾の意が表明されるという異例の事態が生じた。
さらに、2007(平成19)年5月18日に示された国連の拷問禁止委員会による日本政府報告書に対する最終見解・勧告においては、我が国の死刑制度の問題が端的に示された。すなわち、死刑確定者の拘禁状態はもとより、その法的保障措置の不十分さについて、弁護人との秘密交通権に関して課せられた制限をはじめとして深刻な懸念が示された上で、死刑の執行を速やかに停止すること、死刑を減刑するための措置を考慮すべきこと、恩赦を含む手続的改革を行うべきこと、すべての死刑事件において上訴が必要的とされるべきこと、および死刑の実施が遅延した場合には、減刑をなし得ることを確実に法律で規定すべきことが勧告されたのである。我が国の死刑確定者が同条約上の保護を与えられていないことが明確に指摘され、それ故、勧告の筆頭に死刑執行の速やかな停止が掲げられているのであって、その意義は極めて重い。
4.日本弁護士連合会は、これまで、死刑確定者からの処遇改善や再審援助要請といった人権救済申立事件処理を通じて、死刑制度の存廃を含めた問題に積極的に取り組み、死刑が執行されるたびに、死刑執行は極めて遺憾であるとの意を表明し、法務大臣に対し、死刑の執行を差し控えるべきであることの要望も重ねてきた。
このような国内的にも国際的にも、日本の死刑制度に対する非難が高まった状況下において断行された今回の死刑執行は、我が国が批准した条約を尊重せず、国際社会の要請に一切耳を傾けないことを改めて宣言するに等しい。
5.当会は、今回の死刑執行に関して、法務大臣に対し、極めて遺憾であるとの抗議の意を表明するとともに、死刑制度の存廃の論議に資する情報を広く公開した上で、国民的議論を尽くし、死刑制度に関する改善を行うまでの一定期間、更なる死刑の執行を停止するよう強く要請する。
平成20年(2008年)4月23日
鹿児島県弁護士会
会長 松下良成