決議・声明
「犯罪被害者等による少年審判の傍聴」を内容とする少年法改正に反対する会長声明
法制審議会は、平成20年2月13日に原則非公開である少年審判において、一定の重大な犯罪類型に限定して、被害者や遺族の傍聴を認めることを内容とする少年法改正要綱(骨子)を法務大臣に答審した。
当会としては、犯罪被害者等による少年審判の傍聴を認める規定を創設すべきではないと考え、今回の少年法改正要綱には強く反対する。その理由は以下のとおりである。
そもそも少年は人格形成途中にある未熟な存在であり、しかも、少年の資質や生育環境など自ら選択できない条件に強く影響されるものである。このような少年が事件を起こした場合、事件に至った背景などを正確に把握し、少年の内省を深めさせ、適切な教育を施して社会に復帰させることが長期的に見て社会秩序の維持に資するということは近代社会における歴史的教訓である。
だからこそ少年法は、「少年の健全な育成」を根本理念としており(少年法第1条)、少年審判は「懇切を旨として、和やかに行うとともに、非行のある少年に対し自己の非行について内省を促すものとしなければならない」(少年法第22条)として審判非公開としているものである。
それにもかかわらず少年審判に被害者やその遺族の傍聴を認めることは様々な弊害を招き、少年審判の基本的性格が大きく変容することになると考えざるをえない。
第1に、被害者が審判を傍聴することにより少年が萎縮し、審判の場で心情や事実関係について率直な発言をすることが困難になる。
第2に、少年や保護者・裁判官等が少年のプライバシーに関わる発言を控え、事件の背景の解明が不十分に終わるおそれが強い。
第3に、裁判官が少年の教育よりも少年に対する責任追及を中心とした手続の進行をするようになり、審判を通じた少年への教育効果が薄れるおそれがある。
第4に、事件発生から比較的短期間で審判が行われることとなる少年事件においては、審判の時点では、未だ少年の内省も十分には深まっていないことが多く、被害者や遺族の心の傷も癒えずに動揺の大きな時期にあり、そのような段階で、被害者等が傍聴する中で審判が行われることは被害者等の厳しい処罰感情と少年の防衛的心理からの反発が交錯して、被害の克服や非行からの更生にマイナスに働く心理的影響を大きく受ける結果となることが危惧される。
なるほど被害者等にとって真実を知りたいという意向を尊重し「知る権利」への配慮を施すことは重要である。しかしながら、それは被害者等に対して一定の要件下で「事件記録」(注:少年のプライバシーにかかわる「社会記録」とは区別されたもの)の閲覧謄写を認めることで十分達成できるものである。
また、被害者等と少年とが向き合うことについては、事件発生からまだ間もなく互いに流動的な状況にある少年審判の場面でよりも、むしろ、少年院や少年刑務所での矯正教育ないし行刑の一定段階で「修復的司法」の理念の下で慎重な配慮を施して実現する方が少年にとっても被害者等にとっても有益である。
以上のとおりであるから、当会としては、法制審議会が本年2月13日に法務大臣に答審した少年審判に被害者等の傍聴を認めることを内容とする少年法改正要綱(骨子)に対しては、強く反対する。
平成20年(2008年)3月11日
鹿児島県弁護士会
会長 上野英城